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市民の工夫と生きる知恵

(社)日本アルゼンチン協会 会報38号2002年10号掲載)

昨年の12月、それまで安定していた経済・金融システムが崩壊し今までとはない経済危機に一般市民は直面している。ドル化していたペソがほぼ4分の1にまで下落してしまったことで購買力も同比率低下した。公共料金や不動産の価格もそれまでドルの価値に基づいて計算されていたが、危機発生後価格体系全体が崩れてしまったのである。国力も同じく低下してしまい、残ったドル債務だけが増えているのである。

市民レベルでもそれまで分割やローンで購入していた家電や住宅、車などの支払負担が重くのしかかっている。賃金が多少名目上増えてもそれは物価の上昇によってほとんどプラス効果はなく逆にインフレの影響で場合によってはマイナスになってしまう懸念がでてきているのである。とはいってもサービス部門なんかは供給過剰になっているため最近はデフレ不況の見方を強調しているエコノミストも多いようである。

こうした状況下では、銀行からの投資(設備投資)への貸付や高額商品の分割購入へのローン等は殆ど見られなくなったのである。車の売り上げも昨年の同じ時期に比べて3割り程度で、現金でしか購入できない状態にある。家電の場合分割払いにすると年間200%近い利子が発生するという。日本ではとても想像できない状態である。

比較的購買力の高いブエノスアイレス市でも市民の6割が何らかの商品やサービスの消費を減らしており、スーパーでの日常の買い物でも多くがもっと安いメーカーのものを購入しているという調査結果がでている。スーパーの売り上げも上半期だけで28%も落ち込んでいるが、大手スーパーでは買い物の回数を増やすためどの店舗でも利用できる期限付きの割引券等を発行したり、地域 (barrio)の商店街では共通の割引券やポイントカードのようなものを発行している。

Cuoreコンサルタント会社の調査によると今年の1月以降いかなる所得層の人も、必要に迫られて又はこれからの不安を考えて市民の93%が消費習慣を変更していると報告している。家計支出の削減を行っているだけではなく、今まで多少贅沢品で会ったものは極力カットし必需品の一部も削減しているというのである。電話料金も一定の制限額を超えると自分からかけることができなくなる契約形態を選択している人が増えており、自家用車やタクシーの利用はできるだけ避けて公共の交通機関もしくは駅まで自転車か歩いていくようになったものが増えていると指摘している。女性達は化粧品や香水を必要以上に使わないようにしているようである。また、ジムやレジャー施設の利用も非常に低くなっており、バケーションもリゾート地へ行くのではなく近場であまりお金がかからないようにしているという。日常の食卓からはジュースやコカコーラが消えたと調査を実施したコンサルタントは話している。

一方、Compromisoという財団は、父兄の教育負担を緩和するために民間のコンサルタント会社の協力を得て公立学校(主に地方の小中学校)の自己運営プログラムを実施している。展示会やイベントの企画で収入を得て、それを学校運営の財源に当てているのである。こうした学校では教員たちの給料支払がかなり遅れており、全体のモラル(労働意欲)が低下しているとも指摘されているが、学校当事者全員(生徒、教員、父兄、地域住民、NGO)がこうした試みに参加することで連帯意識や地域のニーズをもっと直に認識できるようになったと関係者はプラス効果を強調している。

私立の学校でも授業料を滞納している父兄が増えており、双方の話し合いで滞納分の一部を労務で提供しているケースが報告されている。施設の修理やメンテナンス、課外活動の企画や実施等を数人の父兄で作業グループを形成して定期的に行うことで債務を返済し、学校側もその分経費削減になっているとかなり好評である。

INDEC(国家統計院)によると、ここ半年間で給与所得者が9%減り自営業者が3%増えているという数字を出している。その結果、預金引出制限の影響もあってサービスや商品の物々交換が様々な業界間で頻繁に行われていると話している。しかし職に就けない若者や大卒、プロフェッショナルが増えているのも事実であり、その一部は限られた可能性にかけて海外移住を選択している。

一般市民の生活はかなり変わってきているが、90年代のブームこそ一種のバブルであり、実態と国力がマッチしていない状態だったのではないかと考えられる。穀物やあらゆる食肉が豊富でエネルギー資源もある国がここまで貧困状況が悪化し、必要最小限のカロリーも消費できない状態が発生してしまうということはやはり制度に問題があり制度の運営に問題があるのでないかと多くの人が主張している。政府や行政には頼れないという意識がなお強くなったようである。こうしたことを反映して最近は非常に機能的で運営能力が高いNGOの存在が目立っている。満たされていない市民のニーズに対応するためだが「日本的な手作り団体」ではなく「プロ集団の団体」なのである。政府が実施している失業・貧困対策では地元政治家の介入が障害となって重複して受給したり受給資格を満たしていない人が受給しているという不祥事が相次いでいる。それで、例えばINTA(亜国農業研究所)が実施している家庭や学校、町内会等での野菜栽培を促進しているPro Huerta 計画ではNGOのコーディネーションの役割が大きいのである。6月現在で、40万のユニットが形成され3百万人にかなり安定したヘルシーな野菜を供給しているのである。1万五千人のボランティアで運営されているが、INTAの専門家が訓練と指導に当たっており、7割が都市と郊外の貧困地区で活動している。

 
 
 
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